介護管理職における離職とストレス課題とその対策
介護業界では慢性的な人手不足が続いていますが、現場を支える中核である“管理職”の離職やストレス問題にも注目が集まっています。リーダー職や施設長、サービス提供責任者といった中間管理職層は、現場と経営をつなぐ立場でありながら、過重な業務と精神的なプレッシャーに晒されるケースが多いのが実情です。
この記事では、介護業界の管理職が抱える離職とストレスの実態について、厚生労働省や介護労働安定センターの調査をもとに読み解き、事業者が取るべき対策をわかりやすく整理します。
1. 管理職の離職とストレス、その実態
■ 離職率に見る「中間管理職の疲弊」
厚生労働省が実施する「介護労働実態調査」によると、介護職全体の離職率は近年緩やかに減少しており、2023年度は13.1%と過去最低を更新しました。しかしその内訳を見ると、施設長やサービス提供責任者といった管理職層の離職も一定数存在し、若年層よりも潜在的に“燃え尽き”のリスクが高いことが指摘されています。
介護労働安定センターの調査でも、「管理者層のメンタル不調・人材流出」に懸念を持つ事業所が年々増加傾向にあることが報告されています。現場では“辞めたいと言えない”ポジションであることから、表面化しにくいのが特徴です。
■ ストレス要因は「板挟み」と「孤独」
介護管理職のストレス構造は、一般職とは明確に異なります。主な要因は次の通りです。
- 経営と現場の板挟み
現場職員の不満と、上層部の経営方針との間で揺れ動き、判断に迷うことが多い。自らの意思で改善できる余地が少ない中で責任だけが重くのしかかる。 - 対人関係の調整役
シフト調整や苦情対応、人間関係のトラブル仲裁など、心理的に消耗する業務が多く、慢性的なストレスにつながる。 - 長時間労働と業務過多
管理業務に加え、現場支援や書類対応、行政対応などが重なり、「毎日定時を超えてからが本番」という声も少なくありません。
評価されづらい立場
部下の育成や組織運営の成果は数値化しづらく、法人内でも孤立感を抱きやすい。表彰や報酬制度がないケースも多く、モチベーションが維持しにくい傾向があります。
2. 離職とストレスの背景にある構造的な問題
■ 管理職への「任命はされても育成されない」現実
介護業界では、現場経験が豊富な職員が昇格して管理職になるケースが大半ですが、マネジメント教育を受ける機会が極めて少ないのが現実です。
厚生労働省が2020年に実施した「介護人材確保対策に関する調査研究事業」でも、管理職としてのスキル不足(労務管理・リーダーシップ・経営感覚など)に悩む管理者が多数存在することが明らかになりました。
結果として、「現場を回す」ことに精一杯で、戦略的なマネジメントや部下の育成に手が回らないという悪循環に陥っています。
■ ストレスチェックでも管理職のリスク顕在化
職場におけるストレスチェック制度でも、介護管理職の高ストレス判定率は非管理職よりも高い傾向があります。
厚労省の分析によると、**中間管理職は「コントロールの乏しさ」「役割のあいまいさ」「社会的支援の不足」**の3点でリスクが高くなるとされています。
とくに、「上からの指示に従う一方、下からの不満に対応する」という構造的な立場が、精神的負荷を増大させる要因になっているのです。
3. 管理職が安心して働けるための具体的対策
それでは、介護事業者は管理職のストレスや離職リスクに対し、どのような対策を講じればよいのでしょうか。公的制度の活用も含め、現実的な5つの対策を紹介します。
① マネジメント研修・管理職研修の導入
施設長・サービス提供責任者向けの研修は、厚生労働省や自治体の補助制度を活用して実施可能です。
たとえば「職場環境改善支援事業」や「人材定着支援事業」では、管理職向けのリーダー研修、ハラスメント対策、ストレスマネジメントなどに補助がつきます。
民間のE-learningも活用しながら、「現場で生かせるマネジメント教育」を体系的に整備しましょう。
② 定期的なメンタルサポートの導入
ストレスチェックの結果を放置せず、管理職こそメンタルケアの対象と位置づけることが必要です。
具体的には、臨床心理士・産業カウンセラーによるLINE相談や面談、外部EAP(従業員支援プログラム)の導入が有効です。管理職が孤立しない仕組みをつくることで、組織としての安定性が高まります。
③ 管理業務の分担とICT化
業務過多を防ぐには、書類作業や情報管理のICT化、事務職との役割分担が重要です。シフト作成・勤務実績管理・ケア記録など、負担のかかる部分をシステム化することで、管理職の工数を減らし、本来の“人を見る”役割に集中できます。
④ 評価と報酬制度の見直し
現場介護職に比べ、管理職には目に見える評価が少ないことがモチベーション低下につながります。「部下の定着率」「ケアの質向上」「職員アンケートでの評価」などをKPIとした報酬設計を検討しましょう。
また、優秀な管理職を表彰・顕彰する制度も、組織文化の活性化に寄与します。
⑤ 経営者との対話と信頼形成
管理職が安心して職務を遂行するには、経営層との信頼関係が不可欠です。経営側は管理者に「任せる」だけでなく、「共に考える」パートナーとして接し、定期的な1on1や経営方
4. おわりに:管理職が笑顔で働ける職場が、離職のない職場をつくる
介護管理職の離職やストレスは、単なる個人の問題ではなく、職場全体のマネジメント力と直結する課題です。
「管理職が辞めた」「施設長が疲弊している」といった状況は、現場の混乱や職員離れにもつながります。一方で、管理職が笑顔でやりがいをもって働ける職場は、部下にも利用者にも好影響を与えることは間違いありません。
事業者としては、管理職の役割と重責を正しく理解し、ストレス対策と育成支援を組織戦略の中心に据えることが求められます。
「管理職が安心して働ける職場」こそが、「職員が長く働きたいと思える職場」――
そんな未来をつくる第一歩を、今こそ始めましょう。