介護職員の離職原因を読み解く:公式データと現場の本音から考察

「介護職は離職率が高い」というイメージは、もはや業界にとって常識とされてきました。しかし、近年の公式データを見てみると、実はその“常識”には変化が起きています。一方で、現場では依然として「人が続かない」「新人がすぐ辞める」という悩みが絶えません。

この記事では、厚生労働省や介護労働安定センターなどの公的データをもとに、介護職員の離職の実態を明らかにしつつ、現場で語られる「本音」とのギャップ、そして事業者が取るべき現実的な対策について掘り下げていきます。

離職率は改善傾向――だが現場の実感は?

まず、数字の側面から見てみましょう。公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、2023年度の介護職員の離職率は13.1%。これは2007年度の調査開始以来、最も低い数値です。実際、近年は毎年わずかずつながら改善傾向にあります。

さらに注目すべきは、全産業平均の離職率(約15%)と比べても、介護業界の離職率はすでに下回っているという事実です。「介護職はすぐ辞める」というイメージがある中で、このデータは一見ポジティブなニュースと言えるでしょう。

とはいえ、この数字だけでは現場の肌感覚とは一致しないかもしれません。なぜなら、事業所によってばらつきが大きいからです。離職率が10%未満という職場が半数を超える一方で、20%以上の高離職率事業所も4分の1近く存在します。つまり、離職しにくい職場と、すぐに人が辞めてしまう職場の“格差”が広がっているとも言えるのです。

公的データが示す「建て前」の離職理由

では、なぜ職員は職場を去るのでしょうか? 厚労省および介護労働安定センターの調査では、離職者が挙げる理由は以下のようなものが上位を占めています(複数回答):

  1. 職場の人間関係に問題があった(約34%)
  2. 経営方針や運営に不満があった(約26%)
  3. 他に良い職場が見つかった(約20%)
  4. 収入が少なかった(約17%)
  5. 結婚・出産・育児のため(約8%)

これらはいずれも妥当な理由に見えますが、実はここには**「建て前」として語られる内容が多い**のです。

例えば、「職場の人間関係に問題があった」という表現。これには「上司のパワハラ」「陰湿ないじめ」「感情的な指導」などが含まれますが、本人が直接そう伝えることは稀です。「人間関係が…」とやんわり伝えることで、退職を円滑に済ませたいという心理が働きます。

同様に、「他に良い職場が見つかった」という理由も、本音では「今の職場が限界だった」というネガティブな感情が隠れていることが少なくありません。

本音から見えてくる、職場のリアルな課題

調査やインタビューなどから拾われた本音には、次のような声が多く挙がっています。

  • 「上司に強く当たられ、断りきれずサービス残業が常態化していた」
  • 「同僚とのトラブルがあっても、管理者が対応してくれなかった」
  • 「給与が上がらず、生活が不安。将来が見えなかった」
  • 「夜勤や早番が続き、体力的に限界だった」
  • 「子育てとの両立に配慮がなく、居場所がなかった」

こうした本音は、公式なアンケートでは「人間関係」や「待遇」として集約されるため、見えにくいのです。結果的に、事業者側が課題の本質を取り違えてしまうこともあります。

例えば、「給与を上げれば離職は減る」と単純に考えがちですが、実際には「ハラスメントが放置されている」「相談しても改善されない」など、組織文化やマネジメントの問題の方が深刻なこともあります。

離職防止に向けた5つの現実的アクション

では、事業者として何をすべきか? 単に「人を大事にしよう」という精神論ではなく、具体的なアクションが必要です。ここでは5つの柱を紹介します。

① コミュニケーションの見直し

まず最優先すべきは、職場内の人間関係を整えることです。定期的な1on1面談、チームミーティング、感謝を伝える文化づくりなど、安心して相談・発言できる環境を整備しましょう。ハラスメント対策は必須です。

② シフトと働き方の柔軟化

夜勤の連続や無理なシフトは、体力的にも精神的にも大きな負担になります。勤務の偏りを見直し、希望休や時短勤務を尊重する体制をつくることが、長く働ける職場づくりにつながります。

③ 給与だけでなく「成長の機会」を提供

給与の見直しは当然ですが、それだけでは不十分です。研修・資格取得支援・キャリアパスの明確化により、職員が自分の成長を実感できる仕組みを整えましょう。

④ 働きやすさ=制度と風土の両立

育児・介護との両立を可能にする制度を整えることはもちろん、制度が使いやすい職場風土を醸成することが重要です。制度があっても「使いにくい」と感じさせてしまえば意味がありません。

⑤ 現場の声を“経営に活かす”

職員アンケートや意見箱を形式的に終わらせず、実際に改善策として反映するプロセスを見せることで、職員の信頼を得ることができます。双方向のコミュニケーションを経営戦略に取り入れましょう。

離職率の先にある「選ばれる職場」へ

離職の背景には、表に出にくい本音があり、それは職場の運営体制・人間関係・マネジメントに直結しています。逆に言えば、本音に向き合う経営ができれば、離職は減らせるということでもあります。

「人が辞めない職場」は、「人が集まる職場」へと進化します。そしてそれは、利用者や家族から選ばれる“質の高い介護”につながっていきます。

データの裏側にある“本音”を知り、現場と真摯に向き合うこと。それこそが、これからの介護事業者に求められる姿勢なのではないでしょうか。

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